リスボンのジェロニモス修道院とベレンの塔(世界遺産登録:1983年)
ポルトガルの首都・リスボンにあるベレン地区に、世界遺産に登録されたジェロニモス修道院とベレンの塔があります。
テージョ川に沿ったベレン周辺は、大航海時代の繁栄の歴史を語り継ぐ貴重な史跡になっています。
リスボンがポルトガル王国の首都になったのは、13世紀後半のことです。
15世紀に入ると、ポルトガル史で最も輝かしい時代が始まります。
1415年、「航海王子」と言われたエンリケが、北アフリカの港町セウタへの侵入に成功。
これがポルトガルの初の海外進出になります。
その後、エンリケは大西洋にある島々や西アフリカ沿岸地域の探検・航海を進めました。
1498年には、探検家のヴァスコ・ダ・ガマがインド航路を発見し、このことはポルトガルの経済に大きな転機となります。
インド航路が発見されたことでポルトガルはインドと香辛料を直接取引することができるようになり、ポルトガルは巨額の富を手に入れたのです。
また、リスボンは世界屈指の産業都市として発展し、リスボンこそが世界商業の中心地となりました。
このような背景があり、当時の国王マヌエル1世はエンリケ航海王子とヴァスコ・ダ・ガマの功績を称え、ジェロニモス修道院とベレンの塔の着工を命じました。
ジェロニモス修道院は1502年に着工し、数世紀の時を経て完成しました。
ベレンの塔が造られたのは、1515年~1520年のことです。
リスボンのジェロニモス修道院とベレンの塔 -2-
ジェロニモス修道院とベレンの塔は、共にマヌエル建築の最高傑作です。
マヌエル様式とは、後期バロック様式がポルトガルで独自に発展したもので、バロック様式を更に豪華にアレンジし、細緻で過剰な装飾が特徴です。
また、ロープや鎖、海草、サンゴや船などの航海に因んだものをモチーフとして頻繁に使っています。
ジェロニモス修道院は圧倒的な規模で、マヌエル様式ならではのレース細工のような細かい装飾が特徴的で、建物を見渡すと思わずため息が出ます。
正門にはベレンの聖女の彫刻、中央にはエンリケ航海王子の像、そして西門にはマヌエル1世の像を配しています。
最も大きな見どころといわれるのは、落ち着いた佇まいを持つ中庭の回廊です。
55m四方のこの回廊は、マヌエル様式最高峰の美しさで誰もが魅了されてしまいます。
修道院内にあるサンタマリア大聖堂には、マヌエル国王一家の棺が安置されています。
ベレンの塔は、1515年~1520年の僅か5年で完成した塔です。
厳密には塔のような形をした要塞で、港で船の出入りを監視するために造られました。
とはいえ、実際には監視塔という役割よりも交易のための税関施設、牢屋などに使われていた歴史のほうが長いようです。
塔は5階建てで、1階が水牢、2階が砲台、3階から上は王族の居室として使われていました。
これら二つの建築物は、中世のポルトガルの輝かしい時代を忠実に今に伝えています。